第1章

トップへ戻る (M)=モノローグ(心の中で思っていることか独り言)
●シーン01昇降機 "コルチェア" 内
列車の上等客室のような機内。3人がけの客室内。窓際に1人で座っている女。
至って静かで、窓の外は星空。スピーカーから声が流れる。
機長「機長より通達。一般乗客向けアナウンスのテストを行います」
間を置いて、機内にアナウンスが流れる。
アナウンス『皆様、当機は間もなく、静止軌道局 "アムピオン" に到着いたします。
これより等速運航からアプローチのための最終減速に移行するため、
ご着席いただき、ベルトをお締めください。
手荷物やごみなどは浮遊してけがの原因となる危険があるため、
すべて足元の収納ケースやゴミ箱にしまわれますようお願いいたします。
また、反動に備えるため、客室が回転します。どうぞご注意ください』
すーっと静かに、女に軽く反動がかかり、窓の外の星が回る(客室の方が回転しているから)。
少しずつ減速し、わずかに反動がくる。窓の星空を見続ける女。
じーっと見ていると、無数にある星々の一つが、一瞬消え、再び光り出す。
ん? という感じで窓を見る女。しかしその後は変化がないので、再び外を見続ける。
やがて光が点滅する建造物の輪郭が見える。
建造物=アムピオンはコルチェアと同じ大きさ・形のブロックの集合体。
軍事施設のレーダーサイトに似た大きなドームも見える。
次第に近づいて、コルチェアが中に収納され、窓の外は壁面や機械類しか見えなくなる。
減速が終わり、機体が停止する。
アナウンス『皆様、長らくのご搭乗、誠にありがとうございました。
当機はただいま、アムピオンに到着いたしました。
客室ブロックを台車部分から分離し、エアロックへの接続を行います。振動にご注意ください。
ベルトは外さないようにお願いいたします。お降りいただけるまで、今しばらくお待ちください』


●シーン02アムピオンの中央部・コルチェアの乗降用プラットフォーム
(無音)アームがコルチェアの機体にくっつき、"クエルダ"(支柱となっているケーブル)と台車から分離して、
補助リニアレールの間から取り出し、アムピオン側のエアロックに取り付ける。
(右図をクリックすると拡大します)


●シーン03コルチェア内・エアロック
機外の気圧や成分のチェック後、男性クルー(機長?)が機内側ハッチのハンドルをギコギコ回し
(基本的には現代と同じような手動。向こう側は既に開放)、
ハッチが開くと、目出し帽を身に着け、手に銃とも棒ともつかない道具を持った、
コンビニ強盗のような男2人が現れる。
男性クルー「うわっ(びっくりして声を上げるが、目線が合うと納得した様子になり、囁き声で)ああ……」
男の1人が目で合図し、口元に指を当てる。男性クルーは演技で硬直したふり。
エアロック部分は、コルチェアの1車両内を貫通する廊下のような通路に接しており、
通路沿いに個々の客室の出入り口が並んでいる。
声に気づき、一番奥の客室から通路に顔を出す女。賊に気づく。
男A「(女の方に銃?を向けて)あー……そのー、
う、動かないでくださ……いや動くな。そのままで」
「 ( ゚д゚) 」
わざとらしさにドン引きする女。気を取り直して、男2人をじっと見つめ、再び客室に引っ込む。
客室で、髪をまとめていたヘアピンの1本に手を伸ばして抜き取る。
ヘアピンの半分をグリグリと輪っかにして右手の中指に通し、アイスピックか針のようにして握りしめる。
男たちが来て、女の客室の外側からのぞき込む。
男B「お嬢さん、そのままで」
「(舐めきった口調と笑顔で)ハイジャック……ですか? (^_^) 」
男B「……」
「本当ですか? 銃は本物でしょうか?」
男A「黙って。おとなしく言うことに従って」
(ため息)
客室の出入り口のへりに手をつき、ふわっと窓際の方へ下がる女。
それに応じて、男2人が竿状になって出入り口に入ってこようとした瞬間、
女が頭上方向にフワっと飛び上がり、爪先を手すりに引っかけて浮遊を止め、
反動を抑えつつ左手で男Aの武器?を持った手首をねじ曲げ、男A自身の膝へ向けて引き金を引かせる。ただのおもちゃ。
ビビッて凍り付く男A。女は男Aの頭を足げにして(うめき声を上げる男A)、浮くようにして天井もしくは壁に身を寄せ、
反動でバウンドするように男Bの方を向いて体勢を変える。
男Bに接近、襟元を掴んで慣性に任せて通路側に流れ、くるりと回転して壁に叩きつける。
指に巻き付けていた、ねじ曲げたヘアピンを男Bの顔へ突き刺すような姿勢をとる。
慣性で流れようとする体を脇でおさえ、男Bの目前で腕を曲げ続けて、ヘアピンを止める。
男A「(慌てて)ストップ、ストップ! 危ないから! そこまで!
頼む。冗談だからこれ! もうやめましょう」
にらみ合う女と男B。
男B「大丈夫。彼女は冗談だってわかってるよ」
ヘアピンを離し、フワっと姿勢を整え直して2人と向き合う女。
「歓迎セレモニーですか」
男A「お前引き金引いたよな、確かに引いたよな! 本物だったらどうすんだ」
「まあ、そうでしたかしら? まー弾が入ってても自業自得じゃないですか (^^) 」
男A「…… ( ゚д゚) 」
男B「誠に失礼した。保安課長のラウル・ラフマン・シンだ」
男A「(少しぶすっとして間を置いてから)……ジョシュ・ライアン。
言っとくけど、僕が言い出したんじゃない。チーフが出迎えに行こうって言うから……」
手を差し出す男B=ラフマン、冷静な笑みで少しじっと見つめて握手。
男A=ジョシュとも順番に握手する女。
ラフマン「ようこそ、軌道エレベーター "アルパ" へ」
「お出迎え、ありがとうございます。保安課に配属になりました、
オービタル・アテンダントのアオイ・ヒロセ(広瀬あおい)です。よろしくお願いいたします」
ジョシュ「(あおいをにらみつけて)お前……止めなかったらどうしてた?」
女=あおい「 (・∀・) 」
ジョシュ「 (・∀・) じゃないだろ」
アムピオンの外観。


(T)サブタイトル『ブルーマーブル』


●シーン04アムピオン内・管制課ブロック
静止軌道局 "アムピオン" の管制課。
コルチェアと同規模のブロックユニットの内壁面に、画面やインパネ類が並ぶ。
無重量なのでイスはないが、機器類を扱う際の反動を抑えるため、もたれかかるバーのようはものは一応あり、
管制課員が並んで仕事している。
管制課員1「旅客用○×便、下り線に換装します」
管制課員2「クエルダの振動及び屈曲、許容範囲内」
――などなど、管制課がアムピオンの司令塔であるような描写を数カット。
管制課のブロックにふわっと流れてくるラフマンとジョシュ。続いてあおいが流れてくる。
振り向く男C。
ラフマン「お疲れ。天女が到着したよ」
男C「悪ふざけして、一本とられたらしいな」
ラフマン「美しい花にはトゲがあるってのは本当だ」
男C「よろしく。アムピオン・コマンダー(局長)のケネス・マッケイだ。ようこそ」
あおい「アオイ・ヒロセです。よろしくお願いします」
握手する2人。ほかの管制課員も、振り向いたり席から離れたりして挨拶。
男C=マッケイ「到着早々驚いたろう。普段こんなことしないんだがね」
あおい「心のこもった歓迎をいただきましたわ (^^) 」
マッケイ「気分は? SAS(宇宙酔い)やムーンフェイスは大丈夫かね?」
あおい「大丈夫です。昔のロケットと違って、時間をかけて上昇すれば酔わないって本当ですね。
ムーンフェイスもバードレッグもありません」
マッケイ「ミーティングの時に皆に紹介するよ。急な仕事がなければ、一休みして中を見学したらどうだ。
前に来たことはあるんだっけ?」
あおい「選抜時に一度。でもその時は決められた場所以外立ち入り禁止でした」
マッケイ「それなら、今度は自由に見て回っていい。もともと乗客案内のために、全体の下見に来たわけだし」
ラフマン「ジョシュ、案内してやってくれ」
ジョシュ「(苦々しい顔で)……はい」


●シーン05アムピオン内・様々なブロック巡り
上記の通り、アムピオンは、コルチェアと同サイズのブロックの集合体。
ベルト付きのリクライニングチェアのようなものや、ロッカーなどのあるブロックへ。
ジョシュ「ここが女性用の臨時居室ブロック。まず荷物置いてきなよ」
あおい「男女別れてるんですか?」
ジョシュ「このステーションを造り始めた頃は、昔のISSみたいに手狭で男女ごっちゃだったらしいけど、
随時拡張してるから。もうすぐ一般客を迎えるんで、
なるべく不自由しないように機能を充実させていっているんだ。
でも、お陰で迷路みたいになっちゃった」
あおい「そうなんですか」
荷物を置いて、それまで着ていたスキンタイトスーツから軽装に着替えたあおい。
各ブロックの内壁面のあちこちには、高齢者向け住宅のようなバーが沢山取り付けられている。
それを伝いながら、ブロックごとに違う役割を担っている様子を、浮遊しながらあおいに案内して回るジョシュ。
まず保安課へ。今は誰もいない。
ジョシュ「ここが僕たちの職場。今んとこアムピオンの常駐は2、3人。ほかの軌道局はたいてい巡回だけで、
大半は地上局のセキュリティチェックの仕事をしてる。実際、軌道局で事件なんて起きたことないよ。
うちのチーフ……慣例で課長をそう呼んでるんだけど、
チーフは事実上の副コマンダーで、管制課の手伝いが多いし、僕はシステムセキュリティ担当。
もっばらそういう仕事をして、何週間かで地上と交代だけど、君はアテンダントだから行ったり来たりだろうな」
あおい「何人いるんですか?」
ジョシュ「保安課は君を入れて確か15人。アルパ運用部全体の職員は、150人くらいかな」
あおい「意外と少ないんですね」
工廠ブロック手前の閉ざされたハッチへ(手前側は開放されている)。
ジョシュ「コルチェアの窓から、でっかいレドームみたいなのが見えなかった?
それがこのハッチの向こうで、工廠になってる」
あおい「工廠?」
ジョシュ「アルパから軌道投入する宇宙機の組み立てや、
回収した機体の修復・補給、その他色んな開発や実験なんかやってる」
ハッチがギシギシ音がして開き、中からメガネをかけた女性が出てくる。2人と目が合う。
メガネの女「あ、ひょっとして新人さん? 確か日本の……」
ジョシュ「今度保安課にきたアテンダントですよ」
メガネの女「私、技術開発課のサヨコ・イイモリ(飯森小夜子)。私も日本人だよ、よろしくね」
あおい「アオイ・ヒロセです。よろしくお願いいたします」
メガネの女=小夜子「可愛いねー (`∀´) 」
2人をジト目で見るジョシュ(あおいの凶暴さを目にしているから)。
ジョシュ「サヨコさんは、材料関係の研究者なんだ」
小夜子「もっぱらクエルダっていう、エレベータ−の支柱になってるケーブルの改良が中心だけどね」
ジョシュ「小道具を作るのも得意で、さっきの銃も彼女が3Dプリンタで作った。目出し帽は古い靴下だけど」
小夜子「ああいう変なアイテム作るの大好きでね。もっとヤバイ武器も作れるよ」
あおい「本当ですか?」
少し目を輝かせるあおい。(あぶねー)という感じで見るジョシュ。
続いて観測研究課のブロックへ。ここはハッチが開きっぱなし。
ハッチに手書きで "Arpa Astronomical Observatory" と書かれた紙が貼られている。
ジョシュ「ここは観測研究課のブロック。天体観測や研究をやってて、"アルパ天文台" って呼ばれてる。
あっちは医務室、その向こうは菜園」
あおい「色々あるんですねえ」
ジョシュ「静止軌道には重さの制限がないからね。緊急時に簡易宇宙船にもなる生命維持ブロックもくっついてる。
EVA担当の空間業務課は、いつも増設作業に追われてるよ」
観測研究課の中にいた黒人の青年が気づいてあいさつ。
青年「観測研究課アシスタントのアル・ハムザです。英国の大学から出向してます」
握手。ここから音声なしで、また別のブロック。それぞれハッチの外から覗いたり、中の人と挨拶や自己紹介。
その他、施設の各所を回り、職員と挨拶などするカットを3か所くらい。あるブロックの扉の前で止まる2人。
ジョシュ「ここがアルパの心臓部、というか脳みそだな」
あおい「大型演算システム "ムーサ" ですね」
ジョシュ「その1台。ビット反転の備えで、クエルダを取り囲むように3台並んでるんだ。
アルパ全体の姿勢制御やコルチェアの運航管理とか、衛星やデブリの軌道把握とか、色々な調整をする。
この軌道エレベーターの自律神経を司ってるとでも言えばいいかな。僕はムーサの保守・保安が主な業務なんだ」
あおい「ガンダム00の "ヴェーダ" のパクリですね」
ジョシュ「そう言われるとミもフタもないけど……(・ω・) これは量子コンピュータじゃなくて、
普通のノイマン式だよ。でも演算能力はずば抜けてる」
通路(のブロック)を浮遊する2人。
ジョシュ「まずはこんなとこか。居室ブロックで一休みしなよ。○時間後にミーティングがあるから、またその時に」
あおい「はい、ありがとうございます。さっきは失礼しました」
ジョシュ「(ちょっと見とれて赤くなる)……別に。失礼したのはこっちだから」
あおい「新入りはいつもああいう歓迎を受けるんですか?」
ジョシュ「いや初めてだよ。いつもクールなチーフがあんなケレン味のある真似が好きだとは思わなかったよ。
だいたいさ、こんな宇宙の閉鎖空間で、人質とるような籠城型の犯罪なんて起きないって」
あおい「どうでしょうか」
ジョシュ「逃げ場ないじゃん。銃だって使えるもんじゃない。
反動ですっ飛ぶし、気密が破れたり、機械が壊れたりして自分の命取りになるだけだよ。
保安課も、使えるのはスタンガンと警棒くらいだよ。一番派手でもスタングレネードかな」
あおい「犯罪者が、みんな想像力豊かとは限りませんから」
ジョシュ「それにしても、体柔らかいんだなあ……体操でもやってたの?」
あおい「あら、女の過去を詮索しようだなんていけませんわおほほほ (^0^)
(画面?の方を向いて)ちなみに、私の過去は本編とは関係ないのでこれからも明かされません。
ていうか、作者があまり考えてません」
ジョシュ「どこ向いて言ってるんだ (´д`) 」


●シーン06保安課ブロック
興奮してラフマンに食ってかかるジョシュ。
ラフマンは、奥さんに持たされた水筒でお茶か何かを(ストローで)飲んで落ち着き払っている。
ジョシュ「あいつ何者なんですか? 何でうち(保安課)なんですか?」
ラフマン「もうすぐ、スポンサーとかお偉いさんとかマスコミとか、賓客待遇の乗客を招くサービスを始めるから、
世話をするアテンダントが必要になる」
ジョシュ「それはわかってます。客室乗務員なら運航課か広報公聴課あたりじゃないですか?」
ラフマン「乗客を護衛したり、急病人を助けたりするのも仕事のうちなんだ。
彼女は語学堪能で、救急救命士の資格も持ってるそうだ。
で、乗客の監視役でもあり、不審者は取り押さえる必要もある。その権限も必要だから、
とりあえず管轄権が広い保安課にしたんだよ。女性客の身体検査もしやすい」
不愉快そうなジョシュの顔
ジョシュ「それにしても乱暴というか、止めなかったら、チーフもけがしてたんじゃないですか?」
ラフマン「彼女、最初から茶番だと見抜いてて、遊びに付き合ってくれたんだよ。ちゃんと手加減してた。面白い娘じゃないか」
ジョシュ「僕は面白くなかったですよ。(´・ω・`) なんであんなことしようと思ったんです?
らしくないっていうか、持ち場を離れてまでやることですか」
ラフマン「まあお茶でも飲んで。初の女性課員だし、どんな対応するか見たくてね。巻き込んでしまったことは謝る」
ジョシュ「ひょっとしたら、人を殺したことあるかも」
ラフマン「別にいいじゃないか」
ジョシュ「ええ!?」
ラフマン「彼女自身がテロリストじゃないならね。過去に何をしてようが、今現在味方であればいいさ」
ジョシュ「はあ」
ラフマン「とにかく、きょうから仲間なんだからうまくやってくれ」


●シーン07アムピオン内・ミーティングスペース
ミーティングや食堂代わりに使われる、複数のブロックをぶちぬいた、広い空間のブロック。
(食堂といっても無重量なので机や椅子はありません)何人か集まっている。
マッケイ「紹介する、オービタル・アテンダント第1号の、ミズ・アオイ・ヒロセ。
今回は、一般乗客を迎える下準備として、アムピオンを把握するために来てもらった」
拍手、各自自己紹介と握手。
管制課アナウンス『管制課より連絡。"アコルデ"、ドリフト軌道に遷移終了』
あおい「何かマニューバ中なんですか?」
マッケイ「推進剤を補充するために衛星を回収した無人機が、ここに戻ってくるんだよ」
職員の自己紹介や雑談などが少し続く。誰かが食堂ブロックへ来て告げる。
モブA「ケネス、何か管制課で何かもめてるよ」
マッケイ「何だ?」
前後してアナウンス
管制課アナウンス『コマンダー、至急管制課に来てください』
ミーティングスペースを出て行くマッケイ。


●シーン08アムピオン内・管制課ブロック
フラフラと流れて入ってくるマッケイ。
管制課員A「コマンダー、アコルデが通信途絶しました」
マッケイ「ムーサはコントロールしてないのか?」
管制課員A「ムーサの介入も、こちらのマニュアル操作も受け付けません。ここが遠地点なので速度は下がってますし、
自律的な減速もしているようなんですが、このままだと相対速度差で数mで衝突する可能性があります。
数cm毎秒でも衝突すれば大変です。ある程度まで近づいたら、ムーサが自動的に回避するでしょうが……」
開け放たれたハッチの所へラフマンが来る。上司につられてジョシュやあおいら、食堂にいた職員が覗きこむ。
マッケイ「アムピオン側に異常は?」
管制課員B「ありません。生命維持、通信、レーダー、姿勢制御もすべて機能しています」
マッケイ「"ドラゴンフライ" の危険性か……」
考え込むマッケイ。
マッケイ「アムピオンの回避運動はムーサに任せるが、危険が高まればクエルダから分離。
……時間がない。全員スーツを着用、最外縁区画の生命維持ブロックかコルチェアに退避準備。
すぐにアナウンスして、地上局にも連絡」
準備しようとする管制課員たち。
ラフマン「待ってくれ、ケネス」
管制課ブロックに入ってくるラフマン。振り向くマッケイ。
ラフマン「機器トラブルなのか? 破壊工作の可能は?」
マッケイ「わからないから、姿勢制御でよけるだけじゃなく、避難の準備をするんだ」
ラフマン「最終アプローチのドリフトでイカれるなんて偶然とは思えない。爆弾でも積んでたらどうする?」
マッケイ「ほかにやれることはないだろう。一応、非常時のマニュアルにも沿ってる」
ラフマン「"アルコ" は使えないのか?」
あおいを除くその場の全員が、少し緊張した面持ちになる。憮然とした顔でラフマンを見つめるマッケイ。
ラフマン「みんな知ってるよケネス。大っぴらに言わないだけだ。こういう時のためにアルコがあるんじゃないのか?」
チラチラとハッチの外のギャラリーを気にしながら、苦渋の表情で考え込むマッケイ。
ラフマンとヒソヒソ話し込む。
マッケイ「……急には無理だ。本格稼働してないし、アルコの管制がどこで行われてるか、私も知らないんだ」
ラフマン「いや、緊急時に発動させる権限を君は持ってるはずだ。どういう手続きを踏むか知らんが、
上が渋ったら狙いは我々じゃなくアルコの方かも知れないと言え。実際その可能性もある」
侃侃諤諤のやり取りの末、じっと考え込むマッケイ。
マッケイ「……では、君も出て行ってくれ」
ラフマン「人払いしてる場合か。とにかく急げ、退避準備もだ」
マッケイ「何でそんなにムキになる? 君は退避の指揮を頼む」
ラフマン「わかった」
インパネに向き直すマッケイ。わかったと言いつつ、ハッチ付近で振り返って観察するラフマン。
マッケイ「"オルフェ" を呼び出してくれ」
管制課員A「はい」
地上局管制『こちらオルフェ』
マッケイ「オルフェ、コマンダーのマッケイだ。イワノフはいるか」
地上局 "オルフェ" 局長のオットー・イワノフが出る。
イワノフ『イワノフだ、どうした? 退避準備は住んだのか』
マッケイ「オットー、こっちの状況は把握してるな?」
イワノフ『ああ、退避で安全確保することに異論はない。本社にはこちらで伝えて同意を得ておくから』
マッケイ「これから "弓士" に要請を行いたい」
イワノフ『弓士って……え(当惑)』
マッケイ「要請に合意してもらいたい」
イワノフ『本当に必要なのか?』
マッケイ「テロが心配だ。同意だけしてくれれば、責任は私がとるよ」
その後何や侃々諤々やりとりして、最終的に同意を得ると、
懐からキーとかIDカードみたいなのとかを出してインパネの一部のカギを回すなどし、
掌紋認証を行い、コードを打ち込むなどして、管制を切り替る。
パチパチと打ち込むマッケイ(細かい描写はそれっぽければいい)。
すると、画面にネット掲示板のようなダイアログ画面が映る。
(マッケイの入力文字)『"楽士" より "弓士" へ』
間をおいて回答が出る。
(回答の文字)『こちら弓士。楽士を認証』
(マッケイ)『回収衛星がアムピオンに衝突する危険が出ていることは、そちらでも承知しているか?』
(回答)『肯定』
(マッケイ)『武力攻撃の可能性ありと見なし、コマンダーの権限で、防衛行動としての脅威の排除を要請』
(回答)『脅威の認定と、防衛行動としての脅威排除要請の根拠を問う』
(マッケイ)『我々はアムピオンから避難はするが、施設が再起不能になったり、クエルダが切断されるかも知れない。
ランデヴーはアルコの方が先だ。標的がそっちである可能性も排除できない。
単なる回避では安全確保に確信が持てない』
しばらく間。
(マッケイ)『早くしてくれ。責任は私が取る』
(回答)『検討する。最終判断はこちらで下す。アムピオンは退避を継続されたし』
回線途切れる。結局終始見ていたラフマン。苦い顔をしたマッケイと顔を見合わせる。
ラフマン「これだけか? 素っ気ないもんだ。一体相手は誰なんだ?」
マッケイ「出て行けと言ったろうに……今見てたのは口外するなよ。防衛行動の要請……私ができるのはこれだけだ。
結局状況が変わってないが……とにかくみんな退避だ」
管制課ブロックから出てくるラフマンについてく2人。あおいとジョシュはよくわからない顔。
ジョシュ「何だったんですか? アルコって……」
ラフマン「2人とも、スーツを着てEVAに備えろ。生命維持ブロックに退避するぞ」
避難で慌しい様子で、アムピオン内の説明描写にもなる場面を2、3カット。


●シーン09アムピオン内・退避した生命維持ブロックの中
ほかのクルーと一緒に待機しているあおいたち。マッケイのアナウンスが流れてくる。
マッケイ『通達。回収衛星が、アムピオンから距離300kmを切っても変化がなければ、各ブロックをパージする。
それぞれリングに沿って散開し、衝突をやりすごした後、また指示をする。無事を祈る。以上』
ジョシュ「ここは西向きだし(衛星は西から接近してきているので)、陽の当たり方もちょうど良いから見えるかな」
あおい「一番危ないってことでもあるんじゃないですか」
ジョシュ「あ……それもそうか」
ラフマン「2人とも落ち着いてるな」
あおい「私は……皆さんのように慣れてないから、ただ実感が沸かないだけです」
ラフマン「こんな事態はみんな初めてだよ。(ジョシュを見て)それ、何を持ってきたんだ?」
ジョシュ「はあ、ちょっと見てみようと思って双眼鏡を」
あおい「空気や食糧とか、医療品とか、もっと持ち込んでおかなくていいんですか?」
ラフマン「大丈夫だよ。そこら中にあるから」
少し不思議そうな顔で黙るあおい。
持ってきた双眼鏡?をのぞいていて、やがて飽きてポイ、と浮かべるジョシュ。
ジョシュ「いくら宇宙でも、何百km先なんて見えるわけないか……」
フワフワと流れてきた双眼鏡を持つあおい。手持ちぶさたなので握って、双眼鏡越しに窓の外を見る。
すると、真っ暗な宇宙空間を背に、小さな白い点が見えてくる。無言で見入るあおい。
かすかに大きくなってくる点が、パカッと二つに分かれる。さらに、二つの点は、クイッと角度が変わり、それぞれ離れていく。
やがて真っ黒になって姿が見えなくなる(出来の悪いUFOの目撃フィルムみたいな感じ。真空なので無音)。
あおい「?」
ラフマン「どうした?」
あおい「それっぽいものが見えたんですが、二つに分かれた後、消えました」
ラフマン「消えた?」
双眼鏡を奪うように取り、眺めるラフマン。何も見えない。
ラフマン「……発動したのか?」
少しして、再びマッケイのアナウンス
マッケイ「通達。危機は回避した。それぞれ持ち場に戻って機器などに異常がないか確認。
管制課員は周囲の空間を走査しろ。保安課員、クルー全員の安否と、アムピオン内の安全が確保されているか確認」
ブロックの中にいる職員たち、え? 助かったの? みたいな声が上がる。
ジョシュ「これだけ? ……よくわからないけど……山場は越えたらしいな」
ラフマン「さあ、戻って後始末だ」


●シーン10アムピオン内・ムーサの収容ブロック
色々調べているジョシュ。
ジョシュ「ムーサ自体に異常はないようです。やっぱり問題はアコルデか、回収した衛星の方ですよ。
破片を調べればわかると思うんですが……」
マッケイ「ふむ……でも消えちゃったし、地上局から指示があるまで探すなというということだ」
ジョシュ「アコルデの整備担当は技術開発課のベイカーでしたよね。彼は何か知りませんかね?」
タブレットのような端末に個人データ(「ニコラス・ベイカー 技術開発課 米国籍 男 33」みたいなの)を出すラフマン。
ラフマン「……」


●シーン11アムピオン内・ミーティングルーム
全員集まっている。
マッケイ「全員、守秘義務は了解していると思う。今回見聞きしたことは口外しないように。
それから、この一件が一段落するまで地上に降りることは禁止する」
ざわめき。
ラフマン「調査のために地上から応援が来てから、全員を個別に面談する。交代で通常業務は続けてもらうが、
面談が済むまでは極力2人一組以上で行動してくれ」
面談じゃなくて取り調べだろ、などと小さいヤジが上がる中、隅っこで控えめにしていて、ぼっち状態のあおい。
背後から腕が伸びてくる。刃物のようなもの(工業用のカッターか何か)を持っている。
特に動揺せず、じっと見ているあおい。彼女を後ろから羽交い締めにする男(データにあったベイカーという男)。
無重量状態なので、反動でフラフラ揺れている。あおいは特に抵抗せず、シラケたように冷静にしている。
誰かが気づいて驚きの声をあげる。振り向いて驚くジョシュや小夜子、その他職員ら。
小夜子「あんた、何やってんの?」
ベイカー「…みんな、動かないで」
ジョシュ「……マジか?(人質事件が)本当に起きた……」
モブB「え……お前何かやったの?」
ジョシュ「本当にあんたがやったの……?」
ベイカー「どうせ調べたらバレるし……」
ジョシュ「アコルデに何か細工でもしたのか?」
ベイカー「……」
モブC「(全体としてあまり真剣味はなく、キョトンとした感じ)なんで? こんなことして何の得があんの?」
ベイカー「それが私のミッション……天命だから」
モブD「ミッション? 天命?」
モブE「大丈夫かお前?」
小夜子「モルダー、あなた疲れてるのよ (・ω・)」
ベイカー「誰がモルダーだ (`д´)」
少し空気が重くなり、真剣になって、ジョシュが近寄って説得する。
ジョシュ「こんな閉鎖空間から逃げられるわけないだろう。彼女を離せ、な?」
ベイカー「私とこの女性で、生命維持ブロックに入ります。そしたらブロックをコルチェアに換装してください。
低軌道で彼女を解放します。その後ブロックをパージして落としてください。この人に危害は加えません」
彼の言葉を聞き、方針を決めて苦しそうな演技をするあおい。自分の首に回されている男の左腕に触れるようにして、
冒頭で使った、加工したヘアピンを気づかれないようにサッと髪から抜く。
わずかに冷静な顔に戻って、ラフマンに(やっていいですか?)と目で問いかける。かすかにうなずくラフマン。
刃物を持っているベイカーの手の甲にヘアピンを突き刺すあおい。男の悲鳴。刃物を手から放す。
続けて、あおいが急にしゃがみ込むように体を丸める。つられて前のめりになるベイカー。
そのはずみに、おんぶ状態のまま足元の壁面をあおいが蹴り、
2人ともども、わずかに回転しながら反動で後方へ飛ぶ。背後の壁に男の体がぶつかった拍子に、
あおいは出っ張っている角かバーにつかまるなどして反動をおさえつつ、
思い切り男の頭をけとばし、あとはベイカーの体が慣性でぐるぐる回り続け、彼は失神。
その場に居合わせた一同、ラフマンを除き、呆気にとられてポカーンと見ている。
あおい「刃物、取ってください」
くるくると流れていった刃物をつかむジョシュ。皆で男の回転を止めて取り押さえる。
ジョシュ「(あおいの方を見て)そのヘアピン、まだ持ってたんだ」
微笑するあおい。
ジョシュ(M)『(漂う血の球を見ながら)しかし……やっぱ容赦ない奴……』
あおいの捕物帳を、興味深げにじっと見ているラフマン。


●シーン12静止軌道オービタルリングを運航するコルチェア
アムピオンの一番外側にあるブロック。本体から分離し、独立したコルチェアとして機能する。
直線上に点滅する光の間を進むコルチェア。周囲にはコルチェアやアムピオンの構成ブロックと同サイズのブロックコンテナが、
点滅する光と同じように直線上にの間隔を置いて並んでいる。内部であおいとラフマンが話している。
ラフマン「手続きは済んでるね?」
あおい「はい。今どき紙の書類やら生体認証やら、すごい沢山の誓約書にサインさせられました」
ラフマン「着いて早々、色々知ってしまったからな。その辺の保秘の認識を共有してもらうために、
作業にかこつけて1人で来てもらったんだ」
あおい「光っているのは、オービタルリングの誘導灯ですね」
ラフマン「ああ。今我々はモノレールみたいに、リング沿いに、外側にぶら下がる感じで移動してるんだ」
あおい「周りに浮かんでいるブロックは何ですか?」
ラフマン「備蓄コンテナだよ。空気と水と食糧、その他色んな物資や通信機、バッテリーとか。
退避場所も兼ねて、リングのクエルダに係留して浮かべてある。
平たいのは太陽電池。太陽フレア時には展開して傘にもなるから『アルキメデスの盾』と呼ばれてる。
あとは、ここはヴァン・アレン帯の外だから、宇宙線避けの磁界発生器とかね。
リング自体が磁気の帯で包まれてるんだが」
あおい「ああ(上述のラフマンのセリフを思い出して納得)……今回の件は、破壊工作でしょうか?」
ラフマン「社内でも調べはするが、あの男を地上に降ろしたら、あとは官憲の仕事だ。
……もういいかな。改めて言うが、ここで説明していることは社内秘だ」
あおい「はい」
コルチェアの前方の窓を外側から見た様子。窓の中で外を指さすラフマンと、その方向を見るあおい。
ラフマン「(前方を指し)あの辺、まだ50kmくらい先のはずだが、やはり見えないかな?」
あおい「?」
ラフマン「あるんだよ。あそこにもう一つ、軌道エレベーターが」
再びコルチェア内。少し驚くあおい。
あおい「……」
ラフマン「軌道エレベーター "アルコ"。地上には接してなくて、我々も公式には存在を知らされてない。
ステルス性を持たせていて視認も難しい。アルパのバックアップが主な目的らしいが、
軌道上で使う兵器か何かの実験施設でもあって、非常時にアルパを護る、要塞のようなものだという噂だ」
あおい「……今回はあれが護ってくれた……?」
ラフマン「多分ね」
あおい「人がいるんですか?」
ラフマン「わからない。空間業務課が物資を運び込んでるらしいが、極秘事項のようだ。誰かに会ったという噂も聞かない」
あおい「接近してきた衛星に対して、一体何をしたんですか?」
ラフマン「君の話からの臆測だが、極細のワイヤーみたいなものを引っかけたんじゃないかな。クエルダと同系の。
それで衛星がギロチンみたいにスッパリ切断されてしまったんだろう」
セリフにかぶり、ラフマンの想像を動画で説明。
あおい「……クエルダって、すごい切れ味なんですね」
ラフマン「基はカーボンナノチューブだから、切断に特化した武器なのかもな。
で、その後に何か当てて軌道を変えたか……で、最後に何かで包んだのだと思う」
あおい「それで見えなくなった?」
ラフマン「真っ黒な耐爆材の布みたいなもので包んで、自爆に備えたのかも知れん。全部私の想像だがね。
……しかし、私もミサイルやビーム砲でも撃つのかと想像したが、映画やアニメとは違うな」
あおい「要塞って仰るから、私も一瞬、ア・バオア・クーみたいなのを想像しちゃいました」
実はこっそりヘアピンを手の内側に持っていたあおい。警戒を解き、ラフマンが見てない時に髪にさして収める。
あおいがじーっと見つめていると星が隠れ、何かがあるのがわかる。
あおい「あ…」
ラフマン「?」
あおい「アムピオンにリフトしてくる時、窓から見えた星が瞬いたように見えたんです。
それはありえないから、あの軌道エレベーターに一瞬隠れたんだろうな、って今わかりました」
ラフマン「そうか……うちの軌道エレベーターが、なぜ "アルパ" って呼ばれるか、知ってるかね?」
あおい「公社の名前じゃないんですか?」
ラフマン「そうといえばそうだが……順序が逆で、軌道エレベーターに付ける名前を法人名にしたのさ。
アルパとは、楽器のハープのことだよ」
あおい「ハープ……ああ、だからケーブルを "クエルダ"(弦)と」
ラフマン「そう。で、ハープという楽器は、石弓が基になったという説があるんだそうだ。『弓』は "アルコ"」
あおい「武器のある軌道エレベーターの方を石弓にたとえたんですか」
ラフマン「俗称だがね。ほかにも "指揮棒" とかいう意味のロータベータも地球を回ってるし、
一回り小さい極軌道リングもある。色々なタイプの軌道エレベーターを試してるのさ」
あおい「なんだか、みんなで合奏しているみたいですね……」
ほほ笑むあおい。つられてラフマンも微笑する。
ラフマン「宇宙じゃ音色が聞こえないのが惜しいな」
間。進むコルチェアの外観。
ラフマン「今、私たちの足元に太陽があるからちょうど良い、サービスだ。天井を開けよう」
再び機内。コルチェアの天井が開放される。ビー玉のような地球が見える。微笑して感心するあおい。
ラフマン「昔、宇宙から見た地球を、"ブルーマーブル" と呼んだ人がいるそうだ」
あおい「ブルーマーブル……」
ラフマン「アルパに来て良かったかね?」
地球を見つめるあおい。
あおい「はい」
ラフマン「これから君も、色々知っていくことになるよ」
地球やアルパ、オービタルリングの俯瞰。

第1章 了

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